Black*Jack


ヒキの強さにびっくり。 【Black*Jack】 「やっぱ勝てへんなあー」 テーブルの上に手札を撒き散らして、西川くんは自暴自棄になったように床に転がった。 散らばるスペードやダイヤ達は、天井を見上げてただテーブルの上に広がっている。 それと同じように西川くんも仰向けになって天井を見上げてる。 先ほどから俺に負け続けの彼は、そろそろこの暇潰しに飽きてきたのだろう。所詮は仕事合間の娯楽。 そこまで熱くなる必要もないのだろう。 「大体、ポーカーなんて運任せなんだから」 散らばったカード達を掻き集めて、束に直しながら。 そう言って、彼を宥める。 「じゃあ何で柴さんにばっかいいカード行くんですか」 「…運がいいから?」 「俺が運悪いみたいやん!」 そう言って起き上がる彼を見ながら、束ねたトランプ達をトン、とテーブルの中央に置く。 彼は眉を顰めてトランプを見つめ、意味もなく正座した。 大体、いい年した大人がこんなカードゲームだなんて。 ただの運任せ。だけど楽屋にあるトランプは、妙に存在が気になってしまう。 俺たちはそれにまんまとかかって、今の状態に至るわけだけれども。 「今日俺運悪いんかなー」 「どうだろうね。占いでも見てみたら?」 そう適当にあしらうと、彼は床に置いてあった週刊誌を手に取り、ペラペラと捲り始めた。どうやら本気で占いを探してるみたいだ。 暫くの沈黙のあと、「載ってへん」と、彼は肩を竦め週刊誌を投げ出した。 それと同時に、正座していたせいで足が痺れたのか体制を崩して足の裏を撫でている。 その姿を見て思わず、ぷっ、と笑ってしまった。 すると彼が不服そうな視線を向けてこちらを睨んできている。 そして何を思ったのか、 「なあ柴さん、一つ賭け事してみよ?」 と言い出した。 「賭け事?」 そんなこと言われたら気にならないわけがない。 反射的にそう聞き返して彼を見つめる。 彼は、トランプの束をトントンと指先で叩いて言った。 「俺と柴さんの運を、コレで試してみる」 ヤケにはっきりと言うもんだから、その瞳を思わずじっと見つめ返してみちゃったりして。 「どうやって」 「お互い一枚ずつカード引いて、数大きい方が勝ち。簡単やろ?」 西川くんはトランプの上に手を翳し、それをマジシャンのようにさっとテーブルの上に広げる。 それを肘ついて見ながら感心していると、彼は「もちろん、ジョーカーは何よりも強い無敵のカードな?」と言って笑った。 「シンプルではあるけど…」 「ああ、それだけじゃつまらんし賭け事にもなってないから追加ルール」 「…なに?」 「俺が勝ったら、柴さんにキス一回」 ずる。 ついていた肘が思わず滑った。 …何を言い出すんだこの人は! 自信に満ちた瞳といつもの不敵な笑み。 そんな彼を見て、この賭けに乗っていいものかと少し迷う。 彼の笑みに、どことない漠然とした焦りと恐怖を感じている。西川くんの強運に、恐れている自分が居たのだ。 「…」 「やらへんの?棄権ってことで俺の勝ちに」 「わかった、やるよ」 そう言って煽られるもんだから思わず勝負に乗ってしまう。 ああもう駄目だ、高い高いプレッシャー。 「そうこなくっちゃ。先攻は柴さんからどーぞ」 「…今日は運いいよ、俺。」 「そんなんやってみなきゃわからへんよ」 くすくす笑って余裕を見せる西川くんをちらりと見てから、大丈夫大丈夫、今日はポーカーもずっと勝ち続けてるんだ、今更負けるはずがない。 と、無理矢理そう言い聞かせてトランプを見つめた。いざ勝負。 右端の方にあるカードを、 ゆっくり引き抜いて。 「…あ、キング」 ぺらりとカードを捲ると、そこには威風堂々と構えたキングの絵柄。つまりこのカードは13、一番強いカードじゃないか。 「俺の勝ち」 「っなんで今日の柴さんそんなヒキ強いかなー!?俺もう勝つ確率めっちゃ低いやん!」 訂正、二番目に強いカードだ。 この上にあるカードは無敵のジョーカー。 だけど西川くんがそれを引き当てる確率は、かなり低い。 心の中で勝手に安心した。 だって西川くんがジョーカーを引くなんてほとんど有り得ない話なんだから。 ふぅ、と息を吐いてキングをテーブルに置く。 「あー、手強いな」 「諦めたら?さすがにジョーカーは来ないでしょ」 「でもここでジョーカー引いたら、俺ってなんか凄くない?」 「どんだけ強運の持ち主なんですか」 何故か腕を捲って本気の西川くん。 「ありえないだろう」という気持ちと、 心の奥底で「もしも引いたなら」という思いが交差する。 ジョーカーが来たら彼とキスしなければいけないわけで。 だけどそれを完全に否定しようとはしない自分が存在していたりもして。 ごちゃごちゃの思いの中、彼は中央からカードを引いた。 その選択に迷いはなかったようだ。真っ直ぐに選んだカードを見据えて、すっと手にした。 「…」 「…」 ぴらり、と彼に見せつけられたカードは。 鋭利な鎌を手にして微笑むスカルな死神。 右下と左下にある「J」の文字に、「やられた」と思った。 輝く無敵のジョーカー。 笑みを浮かべるブラックジャック。 テーブルの上、俺のキングは首を狩られた。 「っよっしゃ!俺の勝ち!」 「っはー…、ありえない」 ガッツポーズする西川くんとは正反対に頭を抱える俺。 敵わない、やっぱり彼には敵わないんだ。 「柴さんの唇ゲットー」 「もー西川くんって…」 「勝負はやってみなきゃわかんないってこーと。」 悔しいけれど、だけど、 彼とのキスを想像して甘酸っぱい感情を抱く自分がいて。 「じゃ、キス一回な」 テーブルに身を乗り出し近付く彼を見て、ゆっくり瞳を伏せた。 机の上、ジョーカーがそれを見ていることにも気付かずに。 20061216 しヴぁにし?にししヴぁ? の、つもり。 なんだかんだ言って西川さんはいろんな意味で最強だと思いたい。 BGM / Janne Da Arc [Black Jack]