Dlink Me!!


「ねぇ、バレンタインチョコくれるよね?」 仕事帰り、車の中。 信号待ちの交差点で、運転席に座る彼にそう告げると、彼は無言で俺を見た。 何馬鹿げたことを言っているんだろう。 そんな視線が、俺に突き刺さる。 そして彼は呆れたように、 「本気で言ってる?」 と、一言放った。 俺はいつだって本気なんです。 そう言うと彼は、はー…と溜息を吐いて再びアクセルを踏んだ。視線は俺から離れ、まっすぐ前を見据える形になる。 子供のわがままに、頭を抱える大人のような表情だった。 そんな彼の横顔にさえ、「美しい」という感情を隠しきれない俺は、相当頭がやられているのだろう。 それでもまぁいい。今こうしていられることが幸せであるんだから。 だけど今日2/14・バレンタインデー。チョコを貰えたらもっと幸せなんだろうなぁ。 そんなことを考えて、少し肩を落とした。 「大体俺、貰う側ですし。なんで男が男にあげなきゃならないんですか」 きっぱりそう言われるとやっぱりきつい。 ちらりと横顔を見ると、相変わらず冷めた目をしていた。 俺だってわかってるよ。おかしいことくらい。 女の子が女の子とチョコレートの交換をするのはおかしくないけど、男が男にチョコあげるのが変ってことくらい、わかってる。 だけどそれでも、くれたら嬉しいのになー、って思っただけ。 思っただけじゃなくて、本当は軽く期待だってしてたのに。 そう言われちゃうと、どこか寂しさを拭えない。 「いいじゃんチョコくらい」 「あなたのことだから、どうせ手作りでも期待しているんでしょうけど」 「あ、ばれた?」 「俺は、チョコなんて作る気まったくありませんよ」 うわ、ひっど。 確かにいい年した大人の男に手作りチョコ求めるほうが気持ち悪いけど。けど! そんな言い方しなくたっていいんじゃない?あー傷ついた傷ついた。 …でもそんな棘のあるところも、嫌いじゃないよ。 そう言ったら、「変態は黙っていてください」と突き放された。 うん、嫌いじゃない。この刺激がたまらない。 「……」 「……」 無言の中、走る車。 街のネオン、ところどころ抜け落ちている看板。 暗い夜道を歩くOLの吐息が、白く宙に浮かんでは消えていた。 ビルの光や街灯、自動販売機、24時間営業の飲食店やコンビニ。 地上の街はこんなに明るいのに、 空を見上げれば、そこには漆黒の闇が広がっているだけ。 星なんてあったもんじゃない。浮かんでいるのは、孤独に涙を流すような月がただひとつ。 やっときらり、光が現れたと思ったら、それは人を乗せた鉄の塊。エアポート。 そんな人工の光に、誰が胸をときめかせたりするものか。 人を金で乗せるのなら、夢を愛で乗せるくらいの気遣いだってしてみろっていうんだ。 そんな現実に、希望なんてあったもんじゃなくて。 子供のころの自分はもう居ない。大人になってしまった自分は、現実を知った。 それでもまだ、夢を見ている。 君という、現実に。 黒いだけの空を見ていたら、ちらりと君がこちらを向いていた。 余所見は危険だよ。運転してるのに。 そう思ったけど、俺に向けられた視線を奪われたくなかったから、言わないでおいた。 君の瞳は、まだ俺のもの。じっと、見つめ返す。 ふっと微笑を向けたら、君が少しだけ戸惑ったような顔をした。 一瞬、その瞳は揺らいでいて、何か言おうとしてるんだろうけど、唇は中途半端に開いただけで言葉は発せられない。 (あ、俺に見とれてるんだ) 自画自賛、自意識過剰。 だけどこれ、事実なんだよ。 彼は俺に見とれてる。断言できる。 「…、はく、えいさ」 「寒いね。何か飲みたくなっちゃった。」 俺の名前を呼ぶ声を遮って、にっこり笑みを向けてやった。 無理に喋らなくていい。君は黙っているだけで美しいんだから。 は、と気付いたように君は前に向き直った。 そうそう、運転には集中しないと。 右手に見えるコンビニを指差してみると、彼はそこへ向かってハンドルを切る。 心なしか、慌てているように見えた。可愛いな、なんて恥ずかしいけどそれが正直な感想。 「…何飲みたいんですか?」 コンビニの駐車場に入ると、彼はそう一言言って車を止めた。 エンジンを止めて、扉に手を掛けている。 そんな彼の首筋をすっと撫上げて顔を近づけ、 「暖かいものであれば、なんでも。」 と、返答を。 彼の瞳は揺らいだまま。 触れた頚動脈から、鼓動が伝わってくる。 何か、期待した? キスでもして欲しかった? 期待しちゃうでしょ? 俺も君に期待してるんだよ。 「…っ、じゃあ大人しく待っててください」 ガチャ、と扉を開けて彼はコンビニへと向かっていった。 後姿だけしか見えなかったけど、すこし落ち着きが無いみたいで。 おそらくチョコレートの飲み物を選んでいるであろう彼を想って、俺は瞳を閉じた。 (ごめんね、俺は確信犯だから。) 数分後、期間限定のチョコレートドリンクを渡され、君への期待は現実へと変わる。 20070204 はくぎでした。 はくえいもぎしょさんもこんなキャラじゃない。 初めてのぺにしりん小説だし、許してくださいうわああああ